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Deuce And A Quarter

Deuce and a Quarter 2018-03.jpg
 Deuce and a Quarter / Vinca Petersen (2018)

 昨秋、普段行かない街で洒落た本屋さんに寄ったら、たくさんの素敵な本があって、本当に嬉しくなってしまった。
 そんな中、表紙を見ただけで一気に魅入られたのが「Deuce and a Quarter」という作品で、すぐに手に取ってページをめくると、あまりに素晴らしい写真ばかり並んでいてすっかり心を奪われてしまった。
 カラフルで淡い色調、ロードムービーのような手触り、躍動感にあふれ魅惑的な人々、微かに流れる郷愁・・。
 ものすごく欲しかったのだけど、値段は約1万円(もちろん内容はそれを軽く上回って余りあるが)、手持ちはぎりぎり、生活費も含まれる。どうしよう・・。
 散々迷った挙句、泣く泣く次回に持ち越すことにした。
 (本屋さんを出てからも、やっぱり戻って買っていこうか、すごく悩んだ)

 家に帰って調べてみると、女性写真家ヴィンカ・ピーターセンの作品で、アメリカ / テキサス横断の旅をした際に撮影した写真集だという。
 (一緒に旅したのは、伝説の女性写真家コリーヌ・デイ、スーパーモデルのローズマリー・ファーガソン、写真家のスージー・バブチック)
 なるほど、本当にロードムービーだったんだ、と思った。しかも、その旅に使ったのが70年代調の「Buick Electra 225」というクラシックカーで、この車の愛称が「Deuce and a Quarter」。
 それをタイトルに使うとは、なんとカッコいいこと!

 作品が出版されたのは2018年のこと。しかし実際に旅に出て写真を撮ったのは1999年だという。20年ほど陽の目を見なかったということだ。
 だが今となっては、それは幸運なことであったと言わざるを得ない。撮影当時出ていたら、普通に素晴らしい内容としてのみ受け取られていたかもしれない。でも、現在の眼差しで見れば、すでに失われて久しい1999年の時代の空気がそこにくっきりと表されていることに、感嘆するのだ。
 アメリカが平和だった(と思えた)90年代の、最後の年。まだニューヨークに大規模テロの起こる前。ネットが今ほど普及しておらず、SNSもなく、紙媒体が主流だった頃。なにより人々の意識が、もっとずっと自由だった時代。当たり前のようにあった、何気ない毎日。
 彼女ら自身のリラックスした素敵な表情に加え、旅先で出会った人々や風景の、なんと大らかなこと。そして、見える世界の広く豊かなこと。
 こんな日常もあったのだな、と思わせる。
 いつの間にか、しかし確実になくなってしまった、遥かな時代の日々・・。


 ちなみにこの作品集、どの洋書サイトを見てもソールド・アウトになっている。
 評判の良さに加え、もともとの出版数も少なかったようだ。
 やはりあの時、無理してでも買っておけばよかったと非常に悔やまれる。

 洒落た街の素敵な本屋に行けば、まだ作品はあるだろうか。白い素敵なクラシックカーは、時代のどこかを走り続けているだろうか。
 豊かな日々は、まだ残っているのだろうか。


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