Where were you in '62 ?
遠い昔、遥かかなたの銀河系で・・、ではなく社内で、映画好きの他部署の人と一緒に数ヶ月仕事をした。
その人はやけにアメリカ映画に詳しく、作品はもちろん、映画業界全体にも詳しかった。仕事の出来る冷静な人だったが、映画の話をするときだけトーンが上がった。話が面白くて、いつも熱心に聞いていた。
いわく、映画界と軍関係は強く結びついていて、映画で描かれたことはもう現実に起こっているとか、政治が深く映画に入り込んでいるから、その隠された意図を見逃しちゃいけないとか。
ふだん真面目な人なので、どこまでが本当で、どこからがユーモアなのか分からなかった。基本的に部の雰囲気を良くするためのジョークだったのかもしれないし、あるいは、すべて本当だったのかもしれない。
プロジェクトが一段落つき、その人は元の部署に帰っていった。見た目が若いのと丁寧な口調のため、ついぞ本人には訊けなかったが、たぶん10歳くらい年上だったと思う。本当は偉い人だったらしい。どうやらプロジェクトのため、上と闘ってくれたようだ。
部署からいなくなる前、自分もけっこうアメリカ映画が好きなんですよ、とわたしは言った。「アメリカン・グラフィティが好きなんです」。
おっ、いいね、とその人は言った。絶妙な時代設定がね。ウルフマンジャックがいいんだよね・・。
そうだ。絶妙な時代設定。1962年。ケネディも生きていたし、ベトナム戦争もなかった。まだアメリカが世界一豊かな国だと信じられていた時代。その、ある夜から朝にかけての夢のようなひと時。
最初にこの映画を観たときまだ若かった自分は、描かれた世界すべてがまさにグッド・オールド・デイズだと思った。ノスタルジーの深い余韻を感じた。
だが一方で、本当は公民権運動や女性の権利向上のための長い長い闘いが続いていた時代。63年以降はダラスで事件が起き、ベトナム戦争が泥沼化する。70年代には様々な問題が顕在化。そして80年代に入り、保守派政権は古き良きアメリカを取り戻そうとする。すでに失われた時代を。長く切実な闘いを引き裂くように。
今思うとあの映画好きの人は、『アメリカン・グラフィティ』より『ディアハンター』のような作品が好きだったんじゃないかな、と思う。ベトナムに行って、見え方が完全に変わってしまう世界。
きっと不確かな時代の向こうを見つめて、世の中にある、目には見えない何かの力のことを伝えようとして。
それとも、単に映画の話だけをしていたのか。
お互いもう遥かかなたの場所にいて、時代の移り変わりの中にいる。もし会えたら、そのへんのこと、すごく聞いてみたいんだけどな・・。
The Laughing Man
今日2024年2月3日は、「笑い男」事件が発覚した日。
すべてはそこから始まったわけだけれど、このページの最初も、その物語の言葉から始まる。
https://lemon-firebrigade.blog.ss-blog.jp/2006-05-13
まさか追いつく日が来ようとはね。