Something In The Water
Prince / 1999 (1983)
超傑作揃いの「奇跡の10年」である80年代のプリンス作品の中で、このアルバムをベストに挙げる人も多い。
ミドルティーンだった頃の自分は、アルバム『1999』の中では彼の代名詞のごとき『リトル・レッド・コルヴェット』ばかり聴いていた(MTVで初めて流れたブラック・アーティストの曲でもある)。
ニューウェーヴでポップで、シリアスで、どこかプログレ的な切ないラブ・ソング。サビの部分のキャッチーさは彼のどの代表曲と比べても引けをとらない。
だがハイティーンの頃になると、アルバム後半にある『サムシング・イン・ザ・ウォーター』ばかり聴くようになった。
この曲は本当に素晴らしい。そして、かなり個性的でもある。
まるでハウスミュージックのごときエレクトリカルなリズム、突如響き渡るテクノ電子音、呪術的なメロディ。シンセサイザーが空間を漂い、プリンスの哀切ある叫び声が響き渡る。そしてセクシーに囁かれるつぶやき・・。
イントロと、そしてラスト30秒の、なんとかっこ良いこと。
四半世紀たった今でも、そのサウンドは充分に響き渡る。ダークながら浮遊し、拡散され充満する、あの軽やかなリズムが。
実は『サムシング・イン・ザ・ウォーター』に続く『フリー』は、隠れた名曲として有名である。この2曲が続くところなど、冒頭のシングルカットされた怒涛の3曲と肩を並べるアルバムのハイライトだ。
実際、未だに胸がいっぱいになってしまうのだ、あのサウンドを聴くと。
そして珍しく、やけにプライベートでリリシズムをたたえたこの2曲を聴くと、プリンスの心の奥底の感情が、ほんの少しだけ透けて見える気がする。
まさにこれから全世界を紫色に染め上げんとする前夜、危険な香りを強烈に漂わせながら、それでもリリカルな暗い影をまとった一人の異能な天才の孤独が、ここでは垣間見れるような気がする。